インビジブル・エッジ/マーク・ブラキシル+ラルフ・エッカート(著)/村井章子(訳)

 BCGのコンサルタントである著者らが、企業や社会、国家が継続して競争優位性(本書では、「エッジ」と定義)を維持する手段として「見えざる資産」である「知財」の重要性を説いた一冊。

 本書は大きく3部構成にわかれております。

 第一部では、蒸気機関の歴史やP&Gの業績回復等の各種データを例示しながら、まず、知財の重要性を説きます。

 続いての第二部では、知的財産権を戦略的に活用するための戦略を「コントロール戦略」「コラボレーション戦略」「単純化戦略」と分類し、それぞれについて「ジレット」「トヨタ」「IBM」等のの事例を挙げながら、説明していきます。

 そして、第三部では「中国」「デヴィッド・ボウイ」「フェイスブック」等を例に取り、今後の情報化社会においてどのように知財を廻る世界が展開されていくかといったことが描かれております。

 本書の特徴としては一番挙げられるのは、その事例の豊富さ。知財という確立したルールが出来上がっていない(もしくは、企業によって正解が異なるような)権利を取り上げるからこそなのかもしれませんが、成功例も失敗例も含め、ケーススタディーの材料となる事例が数多く描かれております。

 とりわけ、第七章の「単純化戦略」についての内容が面白い。競争戦略におけるアーキテクチャの重要性を説明した上で、アーキテクチャを構成するための「(標準)規格」「中心的コンポーネント」「テクノロジースタック」の存在や、各要素についての考え方などを、IBMの成功と失敗から描き出されており、考えさせられる内容でした。

 そして、もう一つ、非常に興味深かったのは、タイムリーなフェイスブックについて描かれた第十章「フェイスブックの野望」。

 フェイスブックの現時点での成功、並びに今後の注意点について、知財に関する三戦略の観点から分析している内容ですが、本書のほぼ要約と言っていいほどの内容です。

 具体的には、

1)コントロール戦略

  • 独自の無形資産を持つ
  • グローバルに考え、ローカルに行動する
  • 最も大切なものは知財で保護する
  • 未来の選択肢を確保する
  • 規模の拡大に走らず知財の拡大にも努める
  • すべてに勝とうとせず、協力者を呼び込む
  • 自分で作れないときは、買う

2)コラボレーション戦略

  • 敵と手を結ぶ
  • 知財を活用してパートナーを呼び込む
  • イノベーション・ネットワークを構築する
  • ユーザーによるイノベーションを促進する
  • 信頼関係を築く
  • 共同出資を歓迎する
  • 知財プールを構築する。

3)単純化戦略

  • 戦略をアーキテクチャに結びつける
  • 複雑さを排除する
  • オープン・アーキテクチャを支持する
  • コアの部分は所有する
  • 中心に移動する
  • 標準争いで遅れを取らない
  • 破壊的な攻撃に注意する

 というような形で、知財戦略から見たフェイスブックの優位性が詳細に描かれております。
(ややコジツケに近いような内容もありましたが)

 ともかく、今後の世の中において知財の重要性が減少することはありえないと思われる中で、どのようにかんがえるべきなのか、一定の指針を与えてくれる良著でした。

インビジブル・エッジ

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