バイバイ、ブラックバード/伊坂幸太郎

 伊坂幸太郎の新刊、「バイバイ、ブラックバード」は太宰治の未完の絶筆『グッド・バイ』をモチーフにした連作小説。5人の女性と同時進行で付き合っていた星野一彦が、遠くに旅立つ前に偽物の婚約者を連れて彼女たちに別れを告げていくというストーリー。50人にだけ送付された「ゆうびん小説」という形式で発表された5編に書き下ろし1編を加えた連作小説です。

 『グッド・バイ』についての事前知識はなかったのですが、予備知識無しに面白い作品です。(副読本である「『バイバイ、ブラックバード』をより楽しむために」に同小説は収められております…これを読むといかにうまく設定を生かしたかもわかります。そういう点で、太宰治の力も流石です。)

 伊坂幸太郎の小説の登場人物の持つ不思議な魅力と軽妙なやりとりは本作も健在。太宰治に通じるものがある主人公の星野、偽物の婚約者である繭美、そして各話に出てくる女性達の人物描写ややりとりに読む側はドンドン引き付けられます。

 また、それぞれが独立した小説として成立している一方、伏線もきちんと張られている等、小説の作りの巧みさは今作も見事です。
 
 そして、本作が何よりすばらしいのが、『別れ』という決して明るいテーマ(さらに言えば、本作では最終的に別れは『死』というテーマに向かっていきます)ではないのにもかかわらず、その物語の終わり方に希望があり、非常に読後感がいい作品だったということ。

 ちなみに、その読後感については、本作の副読本である『バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために』の32ページで伊坂幸太郎はこう言ってます。

 そこで本当に救われない話を書いちゃったら、最悪な気がしちゃんですよね。現実の世界を見れば、いくらでも笑えないくらい話はあるんだから。さわやかなだけの話や綺麗事だけで出来ている小説は書きたくないんですけど、どうせ読みなら読み終わったあとにほのぼのしたり、ニコニコできるほうがいいじゃないですか。僕自身、そのためだけに書くし、そのためだけに読んでいるような気がするんです。

 物語を読むからには読後感の良さといったものが欲しいと思っている立場として、こんなこと言われてしまったら、今後も伊坂幸太郎の本を読み続けなければいけなくなるなあと思わざるを得ません。

 実写化しても面白いだろうと思わされる(但し、繭美は一人しか登場人物が浮かばないのが欠点かも…?)珠玉の作品でした。副読本をあわせて読むことをオススメします。

バイバイ、ブラックバード

バイバイ、ブラックバード

「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために

「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために