SOSの猿/伊坂幸太郎

 伊坂幸太郎の新刊、Amazonでは発売前でしたが、近所のTSUTAYAで平積みされていたので購入し、読了しました。

 本作の主人公は二人、困った人間のことを見過ごせない遠藤二郎とシステム会社で品質管理部に所属する五十嵐真。

 引きこもりの青年のカウンセリングを引き受けることとなった「悪魔祓い」の心得を持つ遠藤と、300百億円の損害をもたらした株の誤発注事件の真相の調査を任された五十嵐、二人のストーリは一人称で語られる遠藤の「私の話」と不思議な三人称で語られる五十嵐による「猿の物語」の物語がカットバック形式で展開されていきます。

 伊坂作品の大きな特徴とも言える複数の主人公のストーリーによるストーリーですが、いつもと微妙に違うのは、二人のストーリーに微妙な差異が見えること。どこで2人のストーリが交わるのかといった点に加え、伊坂作品らしからぬ矛盾点が解消されるのか、文体の違い等がヒントだろうと思いつつ、ジリジリとした気持ちにさせられます。

 そして、その気持ちが最高潮に達した所で、2人のストーリがつながり、矛盾が解消されることになります。ストーリー上の矛盾が解消され、クライマックスに向かうというところでは「アヒルと鴨のコインロッカー」に近いかもしれませんが、「アヒルと鴨のコインロッカー」が登場人物の発していた何気ない一言だったのに対し、本作では物語の進め方という大きな仕掛けとなっており、その仕掛けがわかった時点で、全て作者の手のひらの上で転がされていたことを思い知らされます。この仕掛けにまず唸らされざるを得ません。

 加え、もうひとつ唸らざるを得ないのは、物語の結末。「善悪」や「物語」といった哲学的で『重い』テーマを扱っているのにもかかわらず、不思議と読み終わった後にスッきりとした気分にさせらること。

 その一番の理由としては、登場人物に対し「救い」がもたらされているからに他ならないと思いますが、やはり物語には救いがあるべきだよなあなどと思ってしまうような結末でした。

 「ラッシュライフ」や「ゴールデンスランバー」に比べるとスケール感は小さいですが、間違いなく佳作といっていい作品でした。

SOSの猿

SOSの猿