貸し込み(上)(下)/黒木亮

 トップレフトや巨大投資銀行を通じ経済戦争を描いている黒木亮の新作。

 主人公右近はNYのブティック型投資銀行のパートナー。ある日、彼は自分が所属していた都銀と裁判を行っている人間から電話を受け、銀行がバブル時代に行った過剰融資の担当者として槍玉にあがっていることを知ります。

 真実を明らかにし、自らの無実を晴らすため、右近は電話をしてきた原告の弁護士やマスコミと手を組み、銀行と全面対決していきます。

 元銀行マンである著者の実体験をベースにしてあるだけあり、細部の描写が非常に精緻。また、過去作品と同様にスピーディーなストーリー展開が読み手をひきつけていきます。

 一方で、人物描写という点については難が。主人公の右近や弁護士佐伯のサイドの行動を正当化し、銀行サイドを中心とした他の登場人物を必要以上に愚鈍に描きすぎている印象。例えば、主人公サイドも機密保持の観点等から、決してほめられる行動をとっていない部分があるのですが、こちらについては特に述べることもありませんし、銀行サイドの弁護士がありえないレベルで描かれたりしております。勧善懲悪のストーリー仕立て上仕方ないところがあったかもしれませんが、必要以上に著者の感情がこもりすぎている印象を受けました。(都銀を下に見る書き方はトップレフト同様でしたが)

 そのため、面白かったといえば面白かったですが、上記の2冊には及ばない印象を受けました。

 それにしても旧UFJ銀行についてはさまざまな著者が経済ドラマのモデルにしているなという印象。東ハトカネボウもそうですが、よほど色々とあったのだろうと思わされずにはいられません。

 

貸し込み(上) (角川文庫)

貸し込み(上) (角川文庫)

   
貸し込み(下) (角川文庫)

貸し込み(下) (角川文庫)