横道世之助/吉田修一


 久しぶりに読んだ吉田修一作品は心地よい青春小説。

 本書の構成は、1980年代に長崎から東京に上京した大学一年生の一年間を追ったメインストーリーと、
主人公が長崎時代や東京で出会った友人達による後日談の二部構成。

 主人公は、都内の大学(作者の出身校である法政大学だと思われます)に入学した長崎出身の青年、横道世之助。
井原西鶴好色一代男の主人公と同姓同名という以外に大きな特徴をもたない彼は、東京のあわただしい生活に翻弄されつつも、前向きに生活し、変わっていきます。

 サークル、自動車免許、帰省、バイト、学園祭とステレオタイプ的な大学生活の描写が中心ではありますが、
主人公を中心としたキャラクターの設定に加え、1980年代のバブル経済という今から思うとファンタジーのような
舞台設定が、読み手をひきつけます。

 加え、主人公の一人称ではなく、三人称的で俯瞰的に記述されていることが、各登場人物との距離感を
絶妙なものにしております。(そのためか、過去の吉田修一作品とは異なった印象を受けましたが。)
それにより、基本的に世之助の行動を追い続けるストーリーでありつつも、他の登場人物や時代描写も
目に入り、物語の奥行を深くしているように思えました。

 一方で、残念な点は2点。一点目は主人公の高校時代からの友人の「石田」の後日談がないこと。
マスコミ研究会に入って典型的なイベント系の大学生のノリで生きていた彼の消息はぜひに読んでみたかったということ。

 もう一点は、おそらく続編が作れないだろうということ。(理由はネタバレになるので書けませんが)

 また、それ以上に、その続編が作れないだろう理由にたどり着く事件が、現実の世界からのエピソードを
オマージュしていることがそれ以上に疑問符がついてしまうポイントでした。

 あくまでフィクションとして楽しんでいる中、「実はこの人がモデルです」といわんばかりに
唐突に現実のエピソードが「割り込んでくる」のは、個人的には小説の作法としては微妙に思えました。

 ただ、その点を差し引いたとしても、心地よい青春小説であることには変わりありません。
読書の秋におススメできる一冊でした。

横道世之介

横道世之介