終の住処/磯崎 憲一郎

積読状態だった第141回芥川賞受賞作を遅まきながら読み終えました。

 30を過ぎて遅い結婚をした男性の半生を綴った作品でしたが、読みながら早く読み終えたくなる珍しい小説でした。

 ほとんど他の登場人物との会話が存在せず、淡々とした語り口で綴られていく物語の形式であり、主人公の立場に移入して読み進めてしまうのだけれども、受動的な営みが連続しているその生活は痛々しく思われます。
(唯一、彼が能動的に動いたと言ってもいいのは「家を建てる」と決定したこと位。)

 その上、作品の終盤では、過去と現在の関係につき「現在を否定することは、未来だけではなく、永遠の過去を失うこととなる」というある意味哲学的な投げかけが主人公になされます。

 この時点で思わずページを閉じてしまいそうになりつつ、最後まで読み進めると、また、ある種の諦念が想起されてしまうような結末が待っており、「終の住処」という言葉の意味を思い知らされることとなります。

 よほど心のバイオリズムがいい状態ではないと読んではいけない作品であり、沈まぬ太陽とは違った意味で
気を重くさせられてしまう作品でした。

終の住処

終の住処