書評:まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん

第135回の直木賞受賞作が文庫化されていたので、購入、一気に読み終えてしまいました。

 本書は、東京のはずれにあるまほろ市で便利屋を営む多田啓介と、ひょんなことから転がり込んだ高校の同級生の行天の二人が主人公の連作小説です。

 彼らの元に持ち込まれる案件は一見普通の便利屋の仕事、ただし、不思議なことにどの案件もトラブルに巻き込まれていきます。

 読み終わって感じた本書の魅力は2点。

 まずは、人物の「動き」です。主人公の二人はもちろん、各作品のキーマンとして登場する人物の動きがはっきりと感じられます。そのため、自分がその世界の中にひきこまれる感覚を得ることができ、一気に読みたくなってしまいます。

 そして、もう一点の魅力は舞台設定。町田市をモチーフに書かれているまほろ市の都市としての雑多さが、物語としての完成度を高めているように思えます。この舞台設定となっている町田市は、以前紹介した「新・都市論TOKYO」で書かれているのですが、旧来からの都市の結節点とベッドタウンという特徴を持ったこの街は、ある意味で面白い街となっております。

 そして、そんな街だからこそ、便利屋という形での「通訳」の存在が生き、複雑な街で、それぞれ複雑な事情を抱える登場人物の活動をよりリアルなものに感じさせてくれるようと思われます。

 別冊文藝春秋で連載されている続編の単行本化も含め、今後も楽しみなシリーズになる予感がします。