書評:プロ野球の一流たち/二宮清純

 講談社現代新書より発売されたスポーツジャーナリスト二宮清純さんの新刊。大きく二部構成に分かれており、前半の第一章、第二章は名監督・名選手に関するエピソード、後半の三章、四章はプロ野球を中心とした現在の野球をめぐる環境についての論説となっております。

 本書の見所はやはり前半部分、特に各監督、選手に対するインタビューの部分です。ここには、スポーツジャーナリストとして第一線で活躍してきた著者の力量が良く現れております。

 例えば、西武の東尾元監督との間における松坂論についての以下の部分。東尾さんが松坂の課題は「末端部分」にあると指摘した下りにある

確か東尾さんは西武に入団した年、キャンプで松坂にカーブばかり投げさせましたね。これは指先の感覚を磨かせるためですか?

 という質問。この質問により東尾さんの話が膨らんでいきますが、取材力と記憶力がなければでてこない質問ではないでしょうか。

 また、数々のバッターを育てた土井正博さんとのインタビューも非常に面白い。

 インコースのボールを打つ際に前の足は開いてもいいけれども、前の肩が開いてはいけないというバッティング論から、かつて土井さんがコーチした清原選手に関するエピソードに話が転換するのですが、話の転換のさせ方がお手本のような流れで、読んでいて上手いなあと思わされます。

 もちろん、書籍化にあたってインタビューの内容を編集しているのはわかりますが、それでも著者のスポーツジャーナリストとしての「取材力」「記憶力」「洞察力」の能力の高さは特筆すべきものに感じられました。

 「プロ野球の一流たち」というのは監督や選手だけでなく、一流を伝える著者の二宮さん自身も含まれるべき、そう思わされる一冊でした。話にマニアックな部分があるので、野球に興味のない方にはオススメしにくい所もありますが、野球好きなら読んでおいて損はしない一冊です。