書評:調べる技術・書く技術/野村進

 昨年「千年、働いてきました−老舗企業大国日本」を出版した著者によるノンフィクションライターの心得についての一冊。著者の野村さんの名前は、前述の「千年〜」が様々な意味で面白かったので覚えており、その流れで購入しましたが、実際、アタリの一冊でした。

 本書の内容は8章にわかれた構成になっております。具体的に、前半の4章までは、資料や取材を通じた「調べる技術」について書かれており、後半の5章以降では「人物・事件・体験」という3つのテーマについてどのように執筆するかといった「書く技術」が述べられておりますが、ノウハウと心構えの両方の点で参考になることが多いです。

 ノウハウという点では、各種メディアからいかにして情報を収集していくかといったことが述べられている第二章の「資料を集める」が非常に面白いです。例えば、あるジャンルについての単行本を読みすすめる方法論を

  • インタビュー集・対談集から読む
  • 入門書から徐々にレベルを上げる
  • 対象について様々な角度から論じている複数の本を読む
  • 精読すべき本、通読する本、拾い読みでかまわない本を選別する
  • 資料としての本は乱暴に扱う

 と述べていますが、これらについて一つ一つ加えられている解説はなるほどと思わされますし、自らの仕事にも役に立つだろうと感じさせられます。

 同様に第四章の「話を聞く」において書かれている4つのポイント(話の聞き方・ノートのとり方・人物・情景の見方・インタビューのあとで)も実際に投資を検討するにあたってのヒアリングに使えそうな印象をうけました。

 加え、「インタビューのあとで」の中で書かれている言葉が非常に考えさせられます。ボクシング元世界王者の輪島さんの言葉を借りた「最後の10メートルダッシュは、普段仕事をする上で心に留めておきたい一言です。

 自らの書いたノンフィクション作品を掲載し、当時のエピソードを交え解説している6章以降の内容も非常に興味深いです。ともすれば、扇情的にもなりやすい「ニュージャーナリズム的手法」を排除しながらも読む側の琴線に触れる3編の文章は、まさに一流の職人芸を感じさせます。

 そう思うと、「千年〜」が面白かったのは当然かと思われました。一流の職人が一流の老舗とその老舗を支える技術と職人について語っていたのですから。

 「千年〜」ともども、オススメできる一冊です。