ノルウェイの森@TOHO CINEMAスカラ座

 今年最後の映画としてチョイスしたノルウェイの森は非常に評価しづらい映画でした。

全体的な印象として、直子を演じた菊地凛子を中心とした女優陣の演技は素晴らしさと思います。また、トラン・アン・ユン監督が作る映像世界は村上春樹作品の独特な世界観を映し出していたと感じられました。

 特に後者については、日本語を母国語としていない監督がその世界観を理解し描いているという点は特筆に値すると思いますし、逆に言えば、村上春樹作品が従来の日本的な表現を超えているものなんだろうということでしょう。

 ただ、他方、何か違和感を残したのも事実です。

 その一番の理由は、自分自身が原作を読んだのが10年以上前のことで、ノルウェイの森を純粋な恋愛小説というよりはワタナベを中心とした青春群像劇として捉えていたのに対し、映画では直子や緑との恋愛の色彩を全面に打ち出して描かれていたという所に起因していると思います。

 その一番の象徴が、ワタナベと寮で同室だった突撃隊とのエピソード。原作では、ワタナベと外の世界の接点を作る点で一定の役割を殆どと言っていいほど切り取られていたということ。

 ただ、その一方で、原作に忠実にするためだと思いますが、映画として直接ストーリーに影響してこない『必然性がない』と思われるシーンが織り込まれておりました。(序盤のワタナベのアルバイトシーンや突撃隊のセリフなど)

 そのため、自分としてはどこを描きたいんだろうと少々混乱したのも事実です。さらに言えば、原作を読んでいない人にとっては理解がにづらい部分であり、混乱を招くだけなので、このあたりは描くのであればバックグラウンドを含め描き、描かないのであればスッパリをカットしてしまっても良かったような気がします。

 もう一点、注意しなければいけないのは、映画としての立ち位置です。

 本質的にこの映画は単館で上映される「アート」の要素が強い作品であり、エンタテインメントを期待しているひとにとっては『退屈な作品』だということです。(実際、自分自身、途中から隣の人の時計を見て、「(上映終了まで)あと、どの位だ」と計算しておりました。)

 決して見るべきではない枠品ではないですが、一緒に観に行く人は選んだ方がいい作品でしょう。