サクリファイス/近藤史恵

 2008年の本屋大賞で2位になった作品。前々から気になっていたのが文庫化されたということで購入。

 主人公は自転車のクラブチーム「チーム・オッジ」に所属する白石誓(通称:チカ)。

 高校時代まで陸上競技を行っていたチカは、自らの記録と勝利にに執着する陸上に飽きていた時に自転車のロードレースの存在を知ります。エースの他、彼をサポートするアシストという存在を知り、興味をひかれます。その後、彼は陸上をやめ、ロードレースの世界に足を踏み入れまておりました。

 そして、チーム・オッジにおいて彼は「アシスト」として国内最高峰のレースに参加し、その後にヨーロッパを転戦するロードレースに参戦を果たすことになり、そこである悲劇に遭遇します。

 本作は、自転車のロードレースという題材もの良さもさることながら、チーム内部の人間関係の描写が見事です。鼻っ柱が強い同期「伊庭」、孤高のエース「石尾」、石尾を長年サポートしてきた元祖アシスト「赤城」といったチームメイトとのやりとりは、同じチームとしての連帯意識ではなく、むしろプロとしての対抗意識等を含んだ緊張感をもってなされております。これがエースを絶対的な存在とみなすという自転車ロードレースの競技における特徴と相まってストーリーを引き締め、読者を引きつけていきます。
 
 なかでも、クライマックスに向けて高まっていく「石尾」の存在感は特別なものです。エースとしての美学を追求する一方、黙しながらも自らの夢を後進に託していくその姿は、まさに男の中の男でした。

 物語は彼の思いを引き継いだチカがひとつ上のステップに進んだところで終わります。その一つ上のステップとなる続編「エデン」は今月に発売されるとのこと。読み終えた瞬間、検索し、購入してしまいました。

 つまりはそれほど面白い作品だということ。Story Sellerの外伝を含め、ぜひ一読ください。

サクリファイス (新潮文庫)

サクリファイス (新潮文庫)