ゴールデンスランバー@ピカデリー新宿

今年初の日本映画は伊坂幸太郎原作のゴールデンスランバー。首相暗殺事件の犯人にされたかつてのヒーローによる逃亡劇を描いた作品。

原作の出来が素晴らしい反面、中村義洋監督ということで、少し不安を覚えておりました。

中村監督の作品に関して言えば、過去観に行ったアヒルと鴨のコインロッカーチーム・バチスタの栄光もディテールの甘さ(特に人物描写のあたり)があった印象があり、その点で複雑な舞台設定と人物描写がある本作品に向いていないのではと思っていたからです。

ただ、本作についてはそういった不安は杞憂に終わりました。原作で詳細に描写されていたセキュリティポッドや首相公選制についての描写を大胆にカットしつつ人物描写に重きを置いておりましたが、その手法が功を奏したのか、原作との相違点で違和感を感じることなく、面白く鑑賞することができました。

この人物描写に関しては、主役の堺雅人を中心にカタい演技でしたが、個人的には脇役の演技がそれ以上に印象的でした。

とりわけ個人的に良かったのは濱田岳演じる連続通り魔「キルオ」、渋川清彦 が演じる主人公の勤務先の先輩「岩崎英二郎」(なぜか、怒髪天の増子兄ぃかと思ってました)、伊東四朗演じる主人公の父親「青柳平一」の3名。

前者二人に関してはイメージとピタリあっておりました。特にキルオについては、アヒルと鴨のコインロッカーで演じた大学生「椎名」役とこれ程違った演技ができるのかと驚かされました。また、岩崎については、ベタベタ過ぎる程のコミカルな役柄を大げさに、それでいてイヤらしくない形で演じており、出てくるだけで何かがおきそうな雰囲気をもっておりました。

一方、伊東四朗に関しては、登場シーンは少なかったものの本作で一番泣かせるシーンである父親がテレビカメラに向かって語りかけるシーンが上手すぎます。本作の感動の大部分を持っていってました。「信じているんじゃない、知っているんだ!」とテレビカメラに向かって叫ぶセリフは反則レベルの名台詞ですし、最後の登場シーンも絶妙な演技でした。

加え、本作を鑑賞してより正確に理解できたのは、改めてゴールデンスランバーというタイトルの意味の深さ。

タイトルはビートルズの実質的なラストアルバム「アビーロード」のメドレーの一曲目の楽曲名ですが、作品中で語られる歌詞の意味に加え、追い詰められていく主人公を登場人物が交代交代でサポートするという「メドレー」という意味でもかかっていることに気がつかされました。しみじみウマイ。

スケールの大きさではハリウッドの大作に敵わないかもしれないけれども、原作力という点ではやはり日本に一日の長があると確信させられる佳作で、原作を読んでいない人も楽しめ、原作ファンも失望させない作品です。ぜひ、ご鑑賞を。

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

ちなみに「書評 ゴールデンスランバー」でググると僕のブログが3番手にきます