沈まぬ太陽@新宿バルト9

 昨日公開された山崎豊子原作の「沈まぬ太陽」を見に行ってきました。
途中、10分の休憩を挟んでの約3時間半の大作となった作品でしたが、感想を簡単に表現するなら「長い、そしてそれ以上に重い」といったところ。

 以下、ネタバレを含みつつのレビュー。

 原作と決定的に違うのはストーリー構成。中でも、御巣鷹山をストーリーのメインにもってきて再構築している所が決定的に異なっている所。映画の冒頭で空港の様子が描かれている瞬間、映画が重くなる予感がさせられます。

 その予感は現実のものに変わります。空港に集う人々(やけに東幹久が印象的)が乗り込んだのは御巣鷹山に墜落したJAL123便でした。

 さらに、墜落してからの様子が重すぎます。とりわけ印象に残ったのは体育館に並べられた棺の数々を俯瞰で撮影しているシーン。失った命、残された生活、それらを想像せざるを得ない、あまりに残酷な光景にため息をつかされます。

 その後、舞台は1960年代、主人公の恩地(渡辺謙)と仇敵となる行天による労組交渉に移ります。小説版とは異なり首相フライトのストの場面並びにその後の懲罰人事が、1985年とカットバックさせられながら、描かれていきます。

 カラチ、テヘラン、ナイロビと僻地を転々とさせられる恩地の姿は、原作通りの印象。母の死や家庭の不和等を含め、組織人の抱える問題を突きつけられていきます。

 その極みが、ケニアとの間の直行便の就航交渉が中止となるテレックス。それを受け取った恩地は今までの溜まりに溜まった感情を爆発させるように、発狂。そこで、前編は終了。

 10分の休憩の後、後編がスタート。

 ここからは会長室編。舞台は政治的な方向に向かっていきます。この会長室編はストーリーは甘いところがありましたが(特に、国見会長が辞任に向かう経緯の部分)、それ以上に三浦友和が演じる悪い「行天」に注目せざるを得ません。組合の後輩だった八木(香川照之)をつかった裏金を作り、官僚や新聞記者、政治家を抱きこんでいく様子は、フィクションと思いつつも憤ってしまう名演技を繰り広げてました。

 最終的には、恩地と行天にそれぞれの結末が用意され、3時間半の上映時間が終了。

 微妙に登場人物の設定等は違いましたが、限られた時間の中で原作の世界観を壊さずに映画として再構成されていました。その点は製作側の職人魂といったところ。大作としての前評判を崩さない、見事な仕事ぶりだったと思います。

 ただその一方で思うのは、やはりストーリーが重過ぎという所。御巣鷹山に関する部分が過去に同じ素材を扱った映画やドキュメンタリーに比べ、感情を深く抉るような形で描かれている所や、ほとんどの登場人物の将来に希望を見出せない所等、見ていて落ち込まされます。ある意味映像の持つ力なのかもしれませんが、土曜日の夜に見ていてつらくなりました。

 結論としては、非常に見る意味のある作品でしたが、それ以上に見るのに気力が必要な作品です。原作が面白かったからといったような、中途半端な気分で見に行くのはお勧めできません。