書評:プリンセス・トヨトミ/万城目学

 鹿男あをによし鴨川ホルモーの著者、万城目学の新作長編小説。奈良・京都と続いた次の物語の舞台は大阪です。

 調査のため大阪を訪れた3人の会計検査院の調査官と、大阪に住む二人の中学生。一見、関わりがないように思われる二つの物語が、大阪の持つある因縁によって結び付けられていくというストーリー。

 結論から言うと、これはホントに面白い一冊です。 

 過去の作品同様、一見、荒唐無稽に思われるストーリーが本作でも展開されます。しかし、それに対し、地名や建築物などの現実世界のディテールを加えることで、物語に深みとふくらみを持たせることに成功しております。

 例えば、大阪の特徴である「古い近代建築が残る町」という現実の特徴を物語の中盤におけるひとつのキーとしており、具体的な建物をいくつか物語に登場させております。おそらく、そのうちのいくつかは現実には存在しないものなのでしょうが、そのリアルとファンタジーのバランスが読む側に心地よく思えます。

 また、本作については、伏線の張り方も見事です。登場人物の名前等から読み手が推測できる伏線と、後から気がつかされる伏線が絶妙なバランスで配置されており、いい意味で期待を裏切られます。

 マイナス点としては、多少ステレオタイプ的な展開があります。ただ、過去の作品になかったテーマ性という部分を表現しているところを加味すると個人的にはアリでした。むしろ、いくつかのテーマが示されていたことで、過去作品よりもいい読後感が得られた印象を受けました。

 結果、500ページ以上ある作品でしたが、一気に読んでしまいました。

 自分が購入している初版本の帯には「はっきりいって、万城目学最高傑作でしょう」と書かれておりますが、間違いなく同意できる一冊です。

 さらにはあり、個人的には早くも来年の本屋大賞でベスト3には入るのではないかと思える位の良作でした。(一位と書かないのは、夏にでる村上春樹の新作を期待したいというのもあり・・・というところですが。)