書評:「粗にして野だが卑ではない」「もう、君には頼まない」/城山三郎

国鉄総裁の石田<禮助氏と元経団連会長の石坂泰三氏について城山三郎が書いた評伝を読んで思ったことを少し。

 若き日にアメリカに向かう船内で出会い、親友同士とあった二人の明治生まれの財界人は不思議なほどの共通点があります。

 それは物事の筋を通す性格であったり、困難と他人がしり込みするような職務を引き受ける気骨であったり、短気な頑固親父でありつつも周囲の人々に好かれる人間性であったりしますが、読んでいてすがすがしさを覚えます。

 合理的でありながらも、社会と企業との関係性を大事にするそのすがすがしさは、日本資本主義の父とも言われる渋沢栄一さんの系譜を受け継いでいるように思われ、ノウハウとは違う知恵の大切さを感じます。

 文句なしにお勧めの書籍でした。

 ちなみに、本の中身から離れ個人的に面白かったのは著者の城山さんがこの二冊の本を上梓する経緯。「もう、君には頼まない」のあとがきにて本人が書かれているのですが、本書を執筆するきっかけが、「粗にして野だが卑ではない」だったということ。本当に偶然ですが、著者と同じ形で二人の人物について知る機会がもてたのは貴重な経験です。

 次は、もう一冊、著者が石坂本を書くきっかけとなった書籍である「ビッグボーイの生涯」についても読んでみたいと思います。(残念ながら、こちらは絶版のようですが・・・)