書評:オリンピックの身代金/奥田英朗

 奥田英朗の新作。久しぶりの新作は原稿用紙1000枚以上のサスペンスという意外なものでした。テーマは1964年の東京における光と影。簡単にあらすじをまとめると、以下のようなストーリーです。

 1964年、東京オリンピックに向け沸き立つ東京、その街を作り上げる裏では、地方から出稼ぎに来る大勢の人々の労働と命が犠牲になってました。秋田から出稼ぎに来ていた兄を亡くした東京大学の大学院生であった島崎国男は、兄の足跡をたどるにつれ、世の中の矛盾を知ります。自らがいかに世の中を知らなかったかを思い知るとともに、その矛盾に憤った彼は、やがてこの格差の元凶ともいえる「オリンピック」の存在に疑問を感じるようになり妨害を企てるようになります。

 久しぶりの奥田作品でしたが、読み終わっての感想は、他の作家なら面白かったといえるのだけど・・・ということ。

 その一番の理由としては奥田英朗作品で感じる(伊坂幸太郎の作品でも同様に感じるのですが)こんがらがった縄がほどけるような心地よさがなかったということ。テーマの重さがゆえの問題かもしれませんが、過去の奥田作品に比べ、読み終わったときに消化不良な印象を受けました。

 また、ストーリーの展開も個人的には物足りなさが残りました。東京駅における身代金受渡しの手法等は、時代の流行を捉えた面白い手段だなあと思いますが、この時代の社会の表と裏を詰め込んでおこうというような流れの中で多分にご都合主義的な展開が見受けられたのが残念でした。

 本作のテーマ自体は非常に考えさせらるものでしたし、以前紹介した誘拐児の時代(昭和30年代前半)と比した東京の街の移り変わりはもう少し調べてみようかとも思わされ、そういった点で読む価値があったとはいえます。

 ただ、純粋にエンタテインメント作品として楽しめたかというと期待ほどではなかった一冊でした。