書評:午前三時のルースター/垣根涼介

 文庫本の表紙が気になって購入した一冊で、著者は「君たちに明日はない」の垣根涼介です。

 一言で言うと、ベトナムを舞台にしたハードボイルド小説です。

 得意先の社長である中西の依頼により、旅行代理店に勤務する長瀬は、中西の孫の慎一郎をベトナムに連れて行くこととなります。ただ、慎一郎の目的は普通の旅行ではなく、失踪した父親を家族にナイショで探すことで、その手がかりはベトナムを紹介した一本のVTRだけでした。

 VTRにあった、ベトナムの市場風景において父親らしき人間がうつっていたということをヒントに、長瀬と慎一郎、そして永瀬の友人の源内はベトナムホーチミンに旅立ちます。

 旅先のベトナムでは、仲間となるタクシー運転手や娼婦を中心とした出会いや、妨害との戦いを繰り広げたりして、クライマックスへと向かっていきますが、そのクライマックスは少年にとっては、切ないものでした。

 本書をよんでの感想は、それは、「ホーチミン」という街に生きるということが印象的に描かれているということ。本書では、過去の紛争の爪あとを残し、矛盾をかかえつつも、その街で生きている人々の姿が非常に印象的に描かれており、考えさせられる所があります。

 ハードボイルドの描写としては、「そこまでは」という所がありましたが、そういった意味で、面白い一冊でした。