書評:誘拐児/翔田 寛

 今年、第54回江戸川乱歩賞を受賞した作品。

 
 終戦直後の昭和21年におきた未解決の誘拐事件。有楽町の闇市を身代金の受け取り場所に指定された事件は、犯人確保に失敗しただけでなく、身代金を奪われ、人質の子供は見つからないという結果に終わります。

 15年後の昭和36年、横浜の病院で一人の女性が病死し、杉並では一人の女性が命を奪われます。一見、接点がないように思われる二つの出来事ですが、この出来事にまつわるエピソードを調べることとなった遺族と刑事の手によって、誘拐事件は意外な展開を見せることとなります。

 成長と混沌の狭間であった昭和36年と戦中・戦後を絡ませる舞台設定、また、親子の縁が物語の核となってくるストーリー展開は、「砂の器」を彷彿とさせます。
 
 ただ、「砂の器」に比べ、2つの点で弱い点があります。それはストーリー展開の必然性と意外性。

 本書は一定の部分まで読み進めると、物語の結末は浮かびました。そうなると、クライマックスに向けての展開が気になります。さらに、時代描写が非常に面白いこともあり、一気に読み進めたくなります。ここまでは、非常にいいミステリーではないかと思わされます。

 その分、読み終わると、消化不良の感が強くなりました。クライマックスに向けての糸の解き方が「偶然頼り」で、必然性にも意外性に欠けていたのが、その理由です。(具体的に書くと、「ネタバレ」になってしまいますが・・・)

 時代設定や一部のトリックといったものは非常に面白かっただけに、「残念・・・」という所です。

 ただ、今後、面白くなりそうな作家さんだという印象を受けましたので、別の作品も読んでみようとは思います。
その前に久しぶりに、野村芳太郎版の砂の器を観返そうかとも思いますが。(ホント、これは名作で、必見です。)