映画:崖の上のポニョ

 遅ればせながら崖の上のポニョを見にいってきました。場所は先月オープンしたての新宿ピカデリー。内装は非常にきれいで、チャイルドシート等の貸与等のサービスは好印象でしたが、各サービスの導線(コンセッションの位置やシアターに向かうエスカレーターの設計など)がイマイチな印象。六本木ヒルズのような当初から設計されている設備に比べるといたしかたないのかもしれませんが、少し落ち着かない印象を受けました。

 客の入りはというと、平日の14:10の回で8-9割が埋まっているように見えました。話に聞いていたのですが、やはり興行としては順調のようです。

 で、肝心の内容。(以下、ネタバレありです。)

 CMで見ていた通り、作画は非常にすばらしいです。その中でも、特に動きの滑らかさが印象的です。仕事道楽のP172にあるイラストでは、もののけ姫の動画枚数が12万枚強だったのですが、今回は15万枚はいっているのではないかという印象を受けました。(こちらのエントリーをみると、もののけ姫の作画枚数が14万枚で、今回が17万枚のようです。ちなみに平均的な30分の深夜アニメの動画枚数は4000-4200枚程度)

 この点に関しては、これぞ日本のアニメといった所でしょうか。

 一方のストーリーは、人魚姫をモチーフにした物語だったのですが、首をかしげる内容でした。その一番の理由は、ディテールの乏しさです。

 宮崎アニメの魅力は「感情移入させる力」で、その「力」の源泉は「ファンタジーの中にある細部のリアリティ」ではないかと思っているのですが、今回はそのリアリティが乏しかったです。

 例えば、主人公の少年、宗介が周りの人たちにポニョを見せるシーン。一人の老女を除き、「かわいい金魚だねー」で驚いたそぶりを見せておりません。この時点で、個人的には「えっ!?」と思ってしまいました。

 同様の印象はクライマックスにかけても受けさせられます。

 物語の後半では、宗介の母親や母親の勤務地のデイケアセンターが水中に沈みながら普通に生活し、宗介の到着を待つシーンがあるのですが、あまりに唐突な展開にも拘らず、上記の老女以外はとまどうこともなく、その場で佇みます。

 その他にも同じような印象を受けるシーンはいくつも存在していました。

 まとめると、周囲の人たちが「異端」について無条件に受け入れすぎで、その受容性のために、物語全体が平坦になってしまった印象だったということです。

 ストーリー自体にどのような意味を監督がこめたかを完全に推し量ることはできませんが、少なくとも、「大人による無条件の受容」が物語としてのクオリティを下げてしまっていた気がします。

 その他にも物語として違和感を覚える部分はあったのですが、何よりもその違和感が大きかった気がします。

 そして、もう一つ、ここはビジネスとしてどうかと思ったことですが、劇場のグッズ売り場にポニョのぬいぐるみが売ってませんでした。スタジオジブリのモットーとして「映像で回収を図る」というのはわかるのですが、本作に関しては、単純な売上という意味を超え、準備しておくべきだったと思います。

 理由は、子供が観賞の後にぬいぐるみを買ってもらい帰宅することで、子供なりに、ポニョの世界を熟成させられる可能性があるのではないかということです。子供向けに舵をきったのだから、劇場の中を越えて、ポニョの世界を楽しんでもらえるように心がけるべきでは?と考えさせられました。(この点では「ポケモン」による世界観の共有は勉強になります。)

 おそらく興行収入としては、200億円前後の興行収入まで達し、成功と評価されていくのでしょうが、個人的には映像の滑らかさ以外は心に響きませんでした。