書評:社員をサーフィンに行かせよう/イヴォン・シュイナード著・森摂訳

 一年以上気になりつつも読む機会を失っていた一冊ですが、カヤックの柳澤さんの本を読んだ影響もあり、今更ながら読みました。

 本書は、売上の1%を自然保護団体に寄付したり、通常の綿に変えいち早くオーガニックコットンを導入したりといった姿勢でも有名なアウトドアブランドの雄であるパタゴニアの創業者である著者による経営論。

 本書はイントロを除くと大きく分けて三部構成。第一部では、自分と仲間達が利用するためのクライミング機材の製造から始まったパタゴニアの歴史について、第二部では製品の製造から流通や、人事・財務といった幅広い範囲にわたる企業としてのパタゴニアの理念、さらに第三部では、パタゴニアが最も大事とする環境に対しての理念が語られております。

 個人的に意外で面白かったのはビジネスに関しての理念に関する部分。右脳的なイメージをもっているタイプの経営者かと思っていたのですが、差別化戦略やCSについての考え方など、非常に論理的で驚きました。とりわけ、製品デザインについてのこだわりのポイントが面白い。

  • 機能的であるか
  • 多機能であるか
  • 耐久性はあるか
  • 顧客の体にフィットするか
  • 可能な限りシンプルか
  • 製品ラインナップはシンプルか
  • 革新であるか、発明であるか 
  • グローバルなデザインか
  • 手入れや選択は簡単か
  • 付加価値はあるか
  • 本物であるか
  • 芸術であるか
  • 単に流行を追っているだけではないか
  • コアな客層のためにデザインしているか
  • 下調べをしたか
  • イムリーであるか
  • 不必要な悪影響をもたらしていないか

 と、実に17個もの理念が語られております。大きく分けて「実用性」「汎用性」「独自性」「時代性」「環境適合性」というような項目に分類できるかとは思いますが、各項目についての説明が非常に論理的であるため、非常に勉強になります。

 また、訳者の能力や理解の深さに起因する部分もあるかもしれませんが、説得力のある文章構成になっております。同じ意味のフレーズを言い回しを変え複数回にわけ伝えているのですが、非常にシンプルな言葉を使っているためか、素直に頭の中に入ってきます。

 そういった文章をこめて2つほど。

 まずは、P110「パタゴニアの理念」より

 私達の理念は規則ではなくガイドライン(指針)である・・・(中略)・・・確かにそれ自身は「石のごとく不動」だが、さまざまな状況への適用に関しては違う。
・・・(中略)・・・
私達の理念は、大まかな地図に相当する。山の世界とは違って、ほとんど前触れもなくひっきりなしに地形の代わるビジネスの世界において、ただ一つ、頼りにできるものなのだ。

 もう一つ、P233「経営の理念」より

 特に成功したアメリカのCEOを対象に行ったある調査によると、共通の要素が一つ見つかったという−自分の手を動かすことが好きだという点だ。
・・・(中略)・・・
何か問題が持ち上がったときに、「修理屋」を探さなくても自分の技量で解決できるという自信があるのだ。CEOの在籍期間の長さは、当人の問題解決能力、職務への順応能力、成長能力に正比例する。

 

 著者自身の信念の強さに訳者の能力が加わった良著です。パタゴニアに興味があったり、ユーザーだったりという方はぜひご一読をオススメします。