書評:隠蔽捜査/今野敏
2006年に吉川英治文学新人賞を受賞した作品。
主人公は、現場の刑事ではなく、警察庁の総務課に属するキャリア組の警察官僚である竜崎。このあたりの設定は横山秀夫の警察小説に近い印象。
物語は都内で起きた射殺事件の被害者が、過去世間をにぎわせた凶悪事件の犯人だった所から始まります。単独の事件だと思われたのですが、後日、同じ凶悪事件の犯人が同様に射殺された所から、事件は異なる様相は呈していき、竜崎は警察内部や新聞記者との調整をさせられることとなります。
一方、竜崎の家庭においても予備校生である息子がある事件を起こしてしまい、竜崎は対処を余儀なくされます。
物語の全編を通じ、主人公の竜崎は、良くも悪くもエリート意識に基づき、論理的に振舞います。そのため、組織や家庭にとって必ずしも「好ましくない」行動をとろうとすることもあり、結果として「変人扱い」されます。
読んでいてもその印象は一貫しており、当初は、彼の行動並びに心理描写には違和感を覚えることもあります。しかし、一種筋の通った姿に、その違和感は消えていき、次第に彼の考えを肯定する気持ちが芽生えてきます。
そして最終的には、正しいことをする竜崎の行動がいい方向に運びますが、一番読んでいて清々しい気分になったのは、自身の異動を部下である谷岡に告げた時のやりとり。
「私にはとても課長の代わりは務まりません」
「ばかを言うな。優秀な官僚はどんな職務だってこなさなきゃならないんだ」
「私は課長ほど優秀な官僚ではありませんから・・・」
「ならば、優秀になれ」
谷岡は、一瞬驚いた顔をした。それから、おもむろにほほえんだ。
「わかりました」
竜崎はうなずき、広報室あとにした。
「普通」ではないのかもしれないけれど、こんな上下関係もありだなあと思わされるエピソードでした。
横山秀夫作品が好きな方にはお勧めできる一作です。