書評:螺鈿迷宮/海堂尊

 バチスタスキャンダルから一年半後(*)を描いた、チームバチスタシリーズのスピンオフ作品です。

 時期的には、、第二作「ナイチンゲールの沈黙」第三作「ジャネラル・ルージュの凱旋」よりも遅いのですが、刊行時期は第二作と第三作の間となっております。(読む順番としては、時系列順で構わないと思います。)

 舞台は東城大学付属病院ではなく、碧翠院桜宮病院。ホスピス施設と寺院を一体化させた複合型病院であり、終末期医療における新しいモデルとマスコミに取り上げられる一方、黒い噂が絶えない病院です。

 主人公は、落第を繰り返しドロップアウト寸前の医大生天馬大吉。幼馴染の新聞記者葉子から病院への潜入を依頼された天馬は、気乗りがしないのですが、イカサマ麻雀によりつくらされた借金の代償もあり、桜宮病院にボランティアとして専修することになります。

 建物の形状から"でんでん虫"と呼ばれる碧翠院桜宮病院は、入院患者が入院費用の対価を労働で支払うという新しい経済モデルです。その病院のシステムや内情を調べるうちに天馬はある事実に気がつきます。それは「あまりに人が死にすぎる」ということ。

 途中、看護士として潜入していた姫宮の手によりボランティアから患者へと立場を変化させられた天馬は、病院の医師一家や型破りな皮膚科医の白鳥と話をすることで、実際に病院で何が起きているかを理解します。

 そして、患者が減っていく中、天馬の身に異変が起き、物語はクライマックスへと向かっていき、天馬は彼自身の因縁も知ることとなります。

 本作は、良くも悪くも、他の作品に比べ、医学的な専門性が薄れ、ミステリー色が強い印象。また、ロジカルモンスターとしての白鳥のパワーが他の作品に比べ弱く、多少の物足りなさを覚えます。

 また、様々な伏線があり、うまいと思わされるところは確かに存在します。ただ、中で、ストーリーの根底にある東城大学付属病院と碧翠院桜宮病院との因縁が個人的にはよくわからなかった所です。その点も個人的には割り引きたいところではあります。

 そういった点で、個人的評価としては、チームバチスタシリーズとしては少し落ちるといった所でしょうか。不可はないのですが、「すごかった!」とも言い切れない作品でした。