書評:ケータイ小説活字革命論―新世代へのマーケティング術/伊東寿朗

 魔法のiらんどにて、「恋空」「赤い糸」等のケータイ小説をプロデュースしてきた著者による「ケータイ小説ビジネス」についての一冊。

 ケータイ小説が2006年、2007年度と文藝本のベストセラーの上位を占めていたのは知っていたのですが、実際に、どの位のビジネスインパクトがあったのか、ノウハウはあったのかということに興味があり購入しました。

 感想から言うと、「ケータイ小説」に関わる上での温度感はわかります。ただ、サブタイトル「新世代へのマーケティング術」に関してはあまり参考にならなかったなあという印象。

 理由は単純で、「マーケティング」についての独自のノウハウが語られていないからです。

 例えば、P121からの以下の表現。

「仕掛け」てはいけない世界が、いつのまにか「仕掛け」が先行してきている雰囲気が感じられて仕方がないのである。

 その他には、P125で述べられている以下の内容。

ケータイ上に落とし込まれた小説が、知らぬ間に広がって支持を得ていくプロセスというものをどう考えようか?これは、正直考えれば考えるほど、答えは迷宮の中へと入り込んでいく。このプロセスが解明できると、鬼に金棒なのだろうが、そう簡単なものではない。

 このような、マーケティングの概念を放棄しているように聞こえる内容が本書の随所に見受けられます。

 もちろん、それは真実なのでしょう。私自身、ビジネスの立場からコンテンツビジネスに足を踏み入れている人間でもあるので、この感覚と言うものは理解できます。ただ、大人がお金を出して買う本の内容でわざわざ言わないで欲しいと言うのが正直な印象です。

 ただ、だからといって読む価値がなかったかと言うと、必ずしもそうではないと思います。「携帯電話と人との距離感」や「作者と読者の距離感」が携帯電話ならではの表現空間とマッチしたというような安易な分析(※仮に自分がもっともらしくまとめるならという内容です)に走っていないだけでも好印象ですし、個別の具体例については面白いものもありました。

 P99-P105の「拡大するケータイ小説のメディアミックス」において書かれている、映画化に通じ恋空を知ったという大学生のエピソードやP139-P142の「流行のメカニズム」にある、休み時間に誰かが読んでいるのをきっかけにケータイ小説がみんなに「まわし読み」されるようになっていたことという記述などは非常に興味深い内容です。

 具体的な年表や流行の推移なども掲載されていますので、ケータイ小説についてざっくりと知りたいという場合にはいい本ではないでしょうか。