書評:ネクスト・ソサエティ 歴史が見たことのない未来が始まる/P・F・ドラッガー著・上田惇生訳

 2000年前後にP・F・ドラッガーが執筆したり、インタビューに答えた内容がまとめられている一冊。

迫り来る変革を迎える社会をネクスト・ソサエティと位置づけた上で、大きく「迫り来るネクスト・ソサエティ」「IT社会のゆくえ」「ビジネス・チャンス」「社会か、経済か」の4つのテーマにわけ、各部の中で細かいテーマを設定する形でかかれております。

 第一部の「迫り来るネクスト・ソサエティ」においては、冒頭において、ネクスト・ソサエティを迎えるにあたっての大きな変化を「雇用形態」「市場の変化」「競争社会の高度化」「テクノロジストの台頭」「保護主義の台頭」「グローバル企業のマネジメントの変化」と定義付け、それぞれについての変化を説明しております。

 第二部の「IT社会のゆくえ」では、インターネットによる変化を中世の活版印刷インパクトと同様のものと位置づけ、変革の方向性や必要とされるリテラシーについて書かれております。

 第三部については、ネクスト・ソサエティにおけるビジネスチャンスをベンチャー企業、人材関連企業、金融業などに焦点をあてる形で記述しており、最後の第四部では、「経済的変化」「社会(体制)的変化」という軸から、ネクス・トソサエティが直面するであろう問題について記述しております。

 個人的に強く関心をもったのは、雇用体系の変化とマネジメントスタイルの変革に関する記述。「管理」と「命令」による20世紀的な管理体制についての限界を唱えつつ、「報酬」と「意欲」を必要とした新しい組織モデルのあり方といった点や、IT社会においてCEOが直面する5つの問題(*1)といった内容が非常に興味深かったです。

*1 コーポレートガバナンスの変容、外部世界に対する理解、命令とパートナーシップからなるリーダーシップへの対応、知識労働者の生産性の向上、組織全体の共同作業における生産性の向上

 その他に参考になるのは、第3部にある企業化精神の4つのワナ。「市場よりも自分を信じる」「キャッシュフローではなく利益を優先する」「マネジメントチームの欠如」「自らの役割の喪失」といった4つのワナは、VCという実務上も、なるほどと思わされる所で、勉強になります。と同時に、自分の知っているベンチャー企業をあてはめてみるとなるほどと思わされます。

 ただ、何より読み終わって思うのは、一番の感想は、ドラッガーの予見力の鋭さ。10年近く前にほとんどが書かれていた本とは思えない程に正確に未来を予見していることに驚くしかない一冊です。