書評:太陽の塔/森見登美彦

 2003年に発売された森見登美彦のデビュー作。絶望的にもてない京都大学の学生(ただし、自主休学中)である主人公の「私」の現実と妄想の間で悶々と生きていく様子が、独白形式でつづられた小説です。ダ・ヴィンチの文庫本特集で推薦されていたので購入した一冊ですが、 非常によかったです。

 独特の文体もさることながら、主人公とその周辺のメンバーの生き様がいろいろな意味で境界線スレスレなのが非常に面白いです。特にクライマックスの「ええじゃないか騒動」に関する下りはニヤリとさせられます。

 また、舞台が、過去と現代の境界にある京都であること(*)が、スレスレのバランスをうまくとってくれているように思えます。東京ではこうは行かないような気がします。

 * タイトルの「太陽の塔」自身も同様に境界のシンボルとして描かれております。

 まず間違いなく現実離れしている話なんだけど、どこか現実味を感じてしまう、また、大学生活を懐かしく思いつつ、不思議に京都に行きたくなる、そんな一冊です。

 また、一年前に読んだ夜は短し歩けよ乙女も面白かったので、ゴールデンウィークには著者の作品を読むようにしたいと思います。