書評:パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本/海部美知

 「ウェブ時代 5つの定理」「おもてなしの経営学」に続く、ITベンチャー業界人の必読本。少し前に読み終えていたのですが、書評を書きそびれていました。

 タイトルの「パラダイス鎖国」とは、在住するには快適すぎて目が内向きになっている(加え、諸外国から見た存在感が薄れている)日本のことを表現する著者の造語。2006年に発表され、いまではGoogleで10万件以上のヒット数を稼ぐようになっています。

 本書は、そのパラダイス鎖国である日本について、シリコンバレー在住の日本人の立場から、

 といった構成でかかれております。

 本書で著者が主張している内容は第三章の部分を読めば大体はわかりませ。新書なのでそれ程読むのに時間は必要ないと思いますが、ここだけ読めば、まず内容は理解できるでしょう。

 第三章では、パラダイス鎖国からの開国に向けた戦略として

  • 新興国の追いつけ追い越せ戦略
  • 豊かな小国の一点豪華主義
  • おおらかな資源大国を目指す
  • 日本型が得意とするが果てしなき生産性向上
  • 大国仲間の戦略踏襲
  • シリコンバレー型の試行錯誤方式

 というような形で、世界的な戦略を挙げ、その中で、日本は、「パラダイス鎖国」の先輩であるアメリカを参考としつつ、「ゆるやかな開国」を通じ、イノベーションベースの社会の実現に向け試行錯誤していかなければならないといいます。

 バズワードが文章中にちりばめられており、言葉としてはしっくりときます。ただ、残念ながらそこまでの印象。

 むしろ、もっと著者自らがアメリカで体験した出来事を書いて欲しいと思うわけです。

今後の日本、そして個人がどう進むべきかというような内容は多かれ少なかれわかっているわけです。主張されている内容はウェブ進化論で述べられているような内容から変わってないわけです。さらに言えば、ドラッガー大前研一が述べているような内容とも根本的な部分では同じだと思ってます。

 だからこそもっと「生の話」がききたいわけです。海部さんの経歴であれば、NTTアメリカやITベンチャースタンフォードMBA等で感じたエピソードがそれにあたると思いますが、もっとそのあたりの具体的な体験を聞きたいわけです。 

 そういう点で、端々にいい表現があるだけに、著者自身の生きたエピソードが少なかったことが「おもてなしの経済学」に比べ物足りない印象を受けてしまいました。

というところで、どちらを読むかと聞かれたら個人的には「おもてなしの経済学」をおすすめします。