無理/奥田英朗

 奥田英朗の最新長編作。

 舞台は、市町村合併にて誕生した東北地方の地方都市であるゆめの市。本作は、名前とは裏腹に希望が見出せないこの街に住む5人の老若男女の姿を描いた長編群像劇。

 地方都市の閉塞感に対し鬱積とした思いを抱える地方公務員、女子高生、元ヤンのセールスマン、宗教にはまる万引きGメン、市会議員といった様々な境遇の5人の男女に対し、それぞれ別の小さな石を投げ込むことによって、各人の人生が変化していきます。

 一見関わりのない各人ですが、地方都市ならではの狭いコミュニティ(この狭さがまた登場人物に閉塞感を与えることになりますが)のため、間接的に関わっていきます。最終的に5人は思いもよらない接点で結ばれることになります。このつながりは428にも似た感じです。

 読み終わっての感想は、「救いがない」ということ。また、その救いのなさは決して非現実の世界の出来事ではなく、実世界でも起こっていることだと思わさる内容です。さらに言えば、奥田英朗ならではのユーモラスな書き口と人物描写が物語に現実感を与えていきます。

 また、この「救いのなさ」というのは、前作のオリンピックの身代金にも通じることですが、過去の奥田作品との大きな相違点となっております。

 個人的な意見ですが、奥田作品の魅力は主人公を閉塞感で追い詰めつつ、最後には救いの手を差し伸べる開放感だと思っています。それに対し、本作は最後までその救いの手を差し出していません。

 事実、ダ・ヴィンチ11月のインタビューで奥田氏はこう語っています。

 僕はこれまで登場人物をあまりひどい目に遭わせてきませんでした。どこかで救ってあげたいと思っていましたから。けれど作者として、一本、川を渡ることも必要ですから、今回は救うのをやめてみよう、と。

 そういう「救い」という意味で、本作は奥田ファンでい続けるための一つの分水嶺になるような作品かもしれません。

 個人的には。次こそ軽快で救いのある小説を読ませてもらいたいと思いますが…。

無理

無理

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