宵山万華鏡/森見登美彦

 
 先月発売された森見登美彦の新刊を読了。京都で開かれる祇園際の前夜祭である「宵山」を舞台にした6編の小説からなる連作小説集です。

 京都という独特の雰囲気を持つ街、そこに非日常的な「祭り」のエッセンスと万華鏡という媒介物を与えることで、従来の森見作品以上に不思議な空気がかもし出されるのに成功しております。とりわけ、後半にかけ、その不思議な感覚は最高潮に達します。

 エピローグのような「宵山姉妹」で始まった物語は、対となる「宵山金魚」「宵山劇場」の2編のコメディー作品(従来の森見作品で登場したものも出てくるのがファンにとってはまたたまらないところ)で、読者を引き込みます。

 その後、4編目の「宵山回廊」と5編目の「宵山迷宮」の対となる2編でを通じ、読み手は物語における時間感覚を失い、独特の世界の中に迷い込んでいきます。

 そして、最後の「宵山万華鏡」にてその混乱した時間間隔が取り戻されることになります。

 もちろん、従来の森見節は健在。ただ、それ以上に本作が見事なのはその構成。とりわけ、混沌とした頭の中が最終的に整理され、自分の頭の中で再構成されたときは、感動すら覚え、そして「宵山」と「万華鏡」にこめられた何重もの意味を理解することになります。

 決して彼の作品の初心者にはおススメできないかもしれません。ただ、彼の世界に既に使ってしまっている人は必見の作品でしょう。

宵山万華鏡

宵山万華鏡