書評:屈辱と歓喜と真実と /石田 雄太

 前職の同僚だったカツマ君に薦められて購入した一冊。

 2006年に開催された第一回WBCに帯同した著者が見た日本代表の舞台裏について書かれておりますが、スポーツライターとして実績を積んだ著者だけに、その取材力と文章の構成力は確かなものです。

 特に、イチロー(最新号のナンバーのWBC特集のイチローのインタビュー記事も本書の著者によるものです。)に関する描写は、読んでいて引き込まれる感覚を覚えます。

 また、第一回のWBCアメリカに行って観戦し、『世紀の大誤審』を生で目撃している身として(メキシコ人に「あれはないよね」と励まされました。)その当時の記憶を強く思い出させてくれます。

 反面、読者がこのような文章を求めるだろうという流れで書かれすぎているのが残念なところです。

 リーダシップを発揮するイチロー、彼を慕う川崎や今江などの存在、またイチローを影で支える宮本や谷繁、また、日本代表としてのあり方の見本である杉浦正則の存在、等々については、たとえ、それが真実に違いなくても、少々ステレオタイプ的に書かれすぎています。そのため、ひねくれものとしては別の視点からのストーリーを知りたくなってしまいます。(それこそ、2004年アテネオリンピックを描いた奥田秀朗の「泳いで帰れ」ではないですが。)

 ただ、そういった点を差し引いても、野球好きにはたまらない一冊でした。