書評:真実の瞬間 SASのサービス戦略はなぜ成功したか/ヤン・カールソン

 週刊プレジデント2009.2.2号「勝ち残る人が読む本 落ちる人の本」で紹介されていた1990年に出版されたビジネス書です。

 著者であるヤン・カールセンは最前線にいる従業員が顧客と接する最初の15秒間にわたる接客時間を「真実の瞬間」と呼びます。顧客が会社に対して抱く印象を決めてしまう重要な時間であることから呼んだ言葉ですが、本書はそのヤン・カールセンがいかにして複数の企業を変革に導いていったか、何が重要な要因であるかと言ったことが、スカンジナビア航空での経験を中心として書かれております。

 1981年、ヤン・カールソンは経営危機に陥っていたスカンジナビア航空の社長に就任し、わずか一年で会社を黒字化し、3年後には会社を『エア・トランスポート・ワールド』誌が選ぶ年間最優秀航空会社に導きます。市場の転換期においてビジネスユーザをフォーカスするターゲットとし、その戦略に合致する形で顧客本位的な企業にスカンジナビア航空をを作り変えていきます。

 彼は、ビジネスユーザ向けの「ユーロクラス」を新設したり、乗り継ぎをスムーズにするようにゲートを調整したりすることでビジネスユーザの利便性を高める反面、一般的で有効だけれどもビジネスユーザの利益に合致しない戦略を不採用としていきます。

 さらに彼は、ビジネスユーザを満足させるためのソフト面の向上のために現場に権限を委譲します。その上で、試行錯誤しながら、中間管理職の立場を「経営者の方針にそって形で現場従業員が業務を行うことサポーター」に変化させていきます。

 これらの戦略はそれこそビジネス書で色々と書かれているような当たり前のことかもしれません。ただ、だからこそ、自らの反省を含めつつも戦略を実行に移せたという点が非常に印象的に感じるとともに、自らの仕事がいい『真実の瞬間』にあたるかを常に考え直させられる一冊でした。