書評:経営に終わりはない/藤沢武夫

 本田宗一郎とのコンビで本田技研を世界のHONDAに育て上げた名経営者藤沢武夫さんが語りおろした経営論です。

 本書を大きく分類すると2つの内容に分けられます。

 一つ目は小さな工場から出発し、ホンダが大企業となっていくまでが中心で述べられている半生で、もう一つが、経営者としての日々の中からどのような考えの下で行動し、経営者として鍛えられたかという経験に即した経営論ですが、どちらの内容も非常に充実していていました。

 戦後の混乱の時代に誕生した町工場が試行錯誤を繰り返しつつ、大企業に成長していく過程は純粋な成功ストーリーとして、読み応えがあり、ワクワクさせられます。

 また、経営論の部分についても、「たて糸を編む」「たいまつは自分で持つ」といった独自の言葉を使ってまとめられておりますが、経験に裏打ちされた内容であるだけに、わかりやすく、また重く感じられます。

 とりわけ本書を通じ繰り返し書かれている「たて糸をあむ」という表現は、「万物流転のさだめ」にあらがい、企業が存続し続し続けるための根幹として非常に含蓄にあふれておりました。

 そして、なにより心にしみるのがP226から書かれている「二十五年目の幸せな別れ」のくだり。経営の一線から引退する際のエピソードですが、「だれかの鞄持ちをして、なんとかその無名の人の持っている才能をフルに生かしてあげたい」という夢が最終的に結実した万感の思いが伝わる、非常に心に残る内容でした。

 名経営者としての思想を知るという点でも、天才エンジニアに仕えた世界一の鞄持ちの人生を感じるという意味でも必読の一冊です。