書評:大きな約束(上)/椎名誠

 本書は、「岳物語」から連なる椎名誠私小説です。

 中学受験を経験している30前後の人間の多くが触れたことがあると思われるベストセラーの出版から25年、四半期という長い時間を経た作品です。

 ストーリとしては、「サンフランシスコ」「八丈島「沖縄」「奥会津」「北海道」等の旅を続けつつ、周囲が変化していることについて思索する日常が綴られているのですが、文章全体に一つのテーマが感じられます。

 前々作の「春画」では母親の死であり、前作の「かえっていく場所」では妻の更年期障害だったテーマですが、本作のテーマは、同年代の人達の死と衰えではないかと感じられました。

 ときおり繰り広げられる祖父と孫との会話に心を和まされる瞬間はあるのですが、それ以上に感じるのが、友人の妻や別のカメラマンの友人の死に関するエピソード等に代表される、同年代の人達の死と衰えが本作からは感じられました。

 自分の両親よりも少し年上の世代の人々のエピソードではあるのですが、「父親」が少しずつ老いていっているということを、しみじみと考えされられます。

 5月には続編も出るよう予定です。おぼろげながら感じられる「大きな約束」の意味を知るとともに、四半期以上にわたる一つの人生を体感すという点で、必読だと思っております。