書評:破産執行人/杉田望

 高い製造技術とブランド力を持ちながらも経営陣の問題により破綻状態にある老舗製菓会社「興国食品」をターゲットにした買収劇を描いた経済小説。旧経営陣、幹部社員、弁護士、金融機関、総合商社、ブローカー、政治家秘書といったそれぞれの立場の人間が、興国食品の「経営権」とそれにまつわる「カネ」をめぐって駆け引きを繰り広げます。

 モデルとなっているのは、おそらく2003年に民事再生法を適用した「東鳩」です。となると、同様の話題をとりあげていた「ハゲタカ」との比較という話になりますが、本書の方が泥沼状態での人間関係に焦点があてられており、企業間の経済戦争という側面が脇におかれております。

 別の言い方をすると、ハゲタカが「新しい資本主義の盟主による覇権争い」というテーマを取り上げているのに対し、本書は「旧来の資本主義のプレイヤー達による権力闘争」といった印象といった所です。

 その点、経済色が強く自分の仕事と重ね合わせられる部分があるハゲタカの方が趣味に合うため、政治色の強い本書に対しては、少し物足りなさが残りました。