書評:有頂天家族/森見登美彦

 京都の町に住む狸「矢三郎」を主人公とし、狸や天狗が織り成す騒動を綴った連作小説集です。四人兄弟の三男として奔放に育った矢三郎は、どこか頼りない家族や、おちぶれた師匠の赤玉先生等と共に日常を送ります。その中で、いたずらを仕掛けたり、敵対する狸一家との争いを繰り広げたり、時には悩んだりしながら日々を過ごしていきます。

 狸や天狗が主人公と言う意味で、過去の作品に比べるとファンタジーの要素が強くなっております。そのため、一冊目から読むと好き嫌いが分かれるところかと思います。

 ただ、底流にあるテイストとしては森見さんの別の作品である、「夜は短し〜」や「四畳半〜」(読んだのですがレビューしてなかったのでAmazonへのリンクを。)、「太陽の塔」といった著作と変わりません。京都という古都に流れる時の前では、ダメ大学生だろうと、狸だろうと関係ないのでしょうか。

 個人的に大事にしている読後感もいいです。本書の後半で繰り広げられる、狸同士の権力闘争は「化かしあい」という点でも人間同様、むしろそれ以上にドロドロしていたのですが、エピローグとなる八坂神社での初詣の締めくくりは読んでいて気持ちがいいものでした。

 現在、パピルスで続編が掲載されているようですが、まとめて読みたいので、楽しみに単行本の出版を待ちたい一冊です。

 ちなみに、余談ですが、他の森見さんの作品同様、読んでいると京都の街を歩きたくなります。個人的には9月上旬の京都音楽博覧会で訪れる予定なので、今年は街をぶらぶら歩きながら、京都の世界観を味わえればと考えております。