書評:1985年の奇跡/五十嵐貴久

 ずっと気になっていた一冊ですが、素直に面白い一冊でした。

 舞台は1985年の夏から秋。舞台は厳しい管理教育で有名な野球弱小校である小金井学園高校。野球よりも夕焼けニャンニャンに夢中で、おニャン子クラブ誰派で喧嘩をする野球部のキャプテン、岡村浩司が物語の主人公。キャプテンといってもジャンケンで負けたためになっただけの名前だけのキャプテンである上、野球部自身、公式戦、練習試合あわせても一度も勝利したことがなく、勉強の妨げとして校長からは敵視されているような存在です。

 その小金井学園に一人の転校生があらわれます。それは、岡村の中学校時代の同級生で野球推薦で競合校に進学したはずのイケメン沢渡。岡村を始めとした野球部員達は、ひじを壊してボールを投げられないといった彼を他の女子を釣るために野球部にひきこみます。

 そして、ある出来事をきっかけに沢渡のひじの故障が治り、剛速球なげられることがわかります。ヤル気のない集団だった野球部員は、彼のピッチングなら勝てるかもしれないと思い、野球をすることにし、実際、彼の力で予選を勝ち進んでいきます。

 と、ここまでが物語の序盤戦。この後、ストーリーは意外な方向に向かっていきます。

 この後のストーリーを書いてしまうと物語が面白くなくなるのですが、一気に読みすすめたくなります。また、心地よい読後感をもたらしてくれます。

 ありえない設定やわかりやすい展開は、文学的な立場から見ると評価されないのかもしれませんが、それ以上に、時代性をあらわしつつ、高校生なら誰でも感じたことがあるだろう感情を的確に表現している文章は、読んでいて本当に気持ちがよく、文庫本にして400ページ弱ありますが、本当にさくっと読むことができ、オススメできる一冊です。

 余談ですが、1985年はKKコンビが甲子園をわかせ、阪神が初めて日本一になった年で、野球界にとっては象徴的な年です。他にも日航機墜落事故プラザ合意等、今でも日本に影響をあたえているような出来事が起きた不思議な年ですが、何か人をひきつけるものがあるのでしょうか?偶然かもしれないのですが、少し気になります。