書評:君たちに明日はない/垣根涼介

 「リストラ請負会社」日本ヒューマンリアクト株式会社に勤務する村上真介を主人公とした連作小説集。

 建材メーカー、おもちゃメーカー、大型合併後の都市銀行といった会社に派遣された村上は、各社ごとの人員削減目標値を達成するため、面接を通じ、論理的に「自主退職」に向けた説得を対象者に対し行います。しかし、それぞれの境遇を持つ各リストラ対象者は、部外者である村上の説得に対してはスンナリとは応じません。

 その中で、村上はデータや感情論など、対象者のツボをおさえようとする手法を用いることで、「成果」を挙げようとし、そのプロセスがメインストーリーで展開され、途中で、村上自身の「首切り屋」としての有能さを裏付けるエピソードとして、村上自身がもつ2度のリストラ経験をもつことが描かれていきます。

 本書のいい点は、読後感のよさ。ストーリーは比較的わかりやすいです。悪く言えばステレオタイプ的とも言えるかもしれません。ただ、「魅力的なキャラクター」「キャラクターをいかしたストーリー」「読後感の良さ(ハッピーエンドであるということではなく)」といったものを小説を読む際に求めている自分にとっては、非常に読みやすく満足のいく一作でした。

 題材が題材だけに通勤電車の中で読むのはあまりオススメできませんが、さらっと読める小説を読みたいような場合にオススメできる一冊です。