書評:クリエイティブ・シティ 新コンテンツ産業の創出/原田泉 編著

  工業化社会から情報化社会に移り行く中で求められる能力として、個人としての生き方については良く述べられていますが、本書は人が集う都市や地域がいかにしてイノベーションを起こしうる存在(=「創造都市」)となるかという点について述べられています。

 リチャード・フロリダはイノベーションの集積は技術(Technology)、人材(Talent)寛容度(Torelance)の3つのTに規定され、とりわけ、後者2つのコンビネーションが重要だといいます。

 簡単に言うと、地域社会における多様な人材をいかにして受け入れるか、その街の寛容性が創造的階層をもつ人を呼びあつめるということですが、本書では、上記の概念を説明した上で、世界各国で行われている創造都市創出の営みについて述べております。

 また、創造都市の中でも、シリコンバレーのような産業と大学と資本がつくりあげたものではなく、国家や行政がより積極的な営みを通じ作り出している都市についての説明に多くのページが割かれております。具体例としては、ボローニャ地方やバルセロナで行われている行政ネットワークを活用した都市の再生と創出、韓国におけるコンテンツ産業都市の創出活動等があります。

 その中で個人的に面白かったのは、スウェーデンの営み。

 「クリエイティブ産業」「コンテンツ産業」という表現ではなく、スウェーデンでは「エクスペリエンス産業」という言葉が使われます。「『体験』への需要、消費を満足させる人々や産業」と定義される「エクスペリエンス産業」はスウェーデンのGNPの5%を占め、1990年代後半において年に6.5%平均で成長しておりますが、国家として意識的に基幹産業として位置づけていることに個人的に驚きを覚えるとともに、一つの都市の形として非常に魅力的に感じました。(実際IKEAとかでは、商品を展示するのではなく生活スタイルを提示しているわけですし)

 正直、スウェーデンのような取り組みは日本国家や東京という規模の都市では難しいと思います。ただ、今後独自性、独立性をもって運営されていくであろう地方自治体の中で、こういった「エクスペリエンス」型の取り組みがよりオープンな形でなされたら面白い、そのように感じさせられるとともに、個人とは違う方向からイノベーションを考える部分で非常に興味深い一冊でした。