書評:21世紀の国富論/原丈人
先月末の同窓会で話題になった一冊。Amazonで調べた所、伊藤忠商事の丹羽会長も推薦されていたこともあり、迷わず購入し、先ほど読了しました。
まず、本書の構成。
- はじめに
- 第1章 新しい資本主義のルールをつくる
- 第2章 新しい技術をつくる新しい産業
- 第3章 会社の新しいガバナンスとは?
- 第4章 社会を支える新しい価値観
- 第5章 これからの日本への提言
上記のうち、第1章並びに第3章は現行のアメリカ型資本主義の限界や、現行のベンチャー企業の資金調達の問題といった経済的・産業的な面の分析、一方の第2章、第4章は今後必要とされるだろう技術や社会のあり方を「インデックス・ファブリック」(*1)「PUC」(*2)という独自のデバイスを中心に述べており、最後の第5章で今後日本がどうするべきかについて述べてあります。
*1 従来のRDBの欠点を補う、構造に柔軟性を持つデータベースの概念。P2P型のネットワーク社会に適応するためのコア技術になると定義されている。
*2 パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズの略。PCにかわるコミュニケーションツール。誰もがどこでも簡単に使える点で従来のPCの概念とは異なるものと定義されている。
読んでみての感想は、個別には非常に素晴らしいことをいっていると感じました。
例えば、第三章のP144にある以下の言葉
かつて、企業を作るのはヒト(労働力)、モノ(機械、テクノロジー)、カネ(資本)であるといわれた時代がありました。しかし、こうした伝統的なビジネスモデルを現代のベンチャービジネスに適用することはできません。
現代のベンチャー企業はビジョンと資本が出会ったときに生まれます。
他にもP161にある
ベンチャーキャピタルにおける投資のコツがあるとすれば、それはまず「主観的な考え方をもつ」ことです。
というような内容や、自身が行っている途上国への援助についてP196で述べている
大切なのは「通常行われている方法が根本的な問題解決になっているのか」という考え方だと思います。安易な解決法を踏襲しないで、自分の頭で一度根本に戻って考えることです。
・・・(中略)・・・
経済的に自立した事業として成立させることができれば、支援をするほうとされるほうが共通の九表をもつことができ、負担を負うだけの立場にある当事者はいなくなるのです。
といった部分等は、なるほどなあと思わされます。
ただ、反面残念な内容もちらほらあります。
それは、著者の文章全体から感じられる「実践主義」な思考裏側かもしれませんが、正直、「現場」的な視点で考えているだろう「実践的」内容と、頭の中で思考しているだろう「セオリー的」内容のクオリティの差があるということ。
第1章や第3章の途中までは非常に面白いのですが、第3章の最後であるような「日本の大企業の研究所とベンチャー企業の連携をすべき」といった内容だったり第5章の提言内容(企業のディスクロージャーや新しい株式市場、税制度等)だったりが腹に収まる感覚を覚えませんでした。
通信業界やベンチャー企業、ベンチャーキャピタルといった自分自身が経験した環境の話題が多く、想像しやすい部分が多く(XVDに関しては設定したことすらありますし)読みやすい本ではありましたが、どうも評価がしにくい一冊である反面、他の人がどう思うのか確認してみたくなりました。