書評:走ることについて語るときに僕の語ること/村上春樹

 走る小説家、村上春樹が2007年11月に出版したエッセイ集。ちょうど東京マラソンだからというわけではないですが、遅ればせながら購入しました。

 本書は、小説家となった時点でランニングを開始した村上さんが、ランニングを通じ人生について語っている一冊。過去、自分自身について多くを語らない村上さんが自分自身について率直に語っている時点で読む価値のある本です。

 本書は、2005年のニューヨークシティマラソンに向けたトレーニングの日々の間に思ったこと、過去を回想していることをメインコンテンツとし、その後の2006年のトライアスロンに出場した前後のことをエピローグ的なカタチで構成されております。

 実際、自分自身、過去一度だけフルマラソンを走った経験で感じたのですが、42.195kmの間では本当に色々なことを考えます。

 始めの数キロはコンディションの確認やこれから待ち受けてくる距離への不安。中盤頃は予想外に気分良く走ることができ、このままいけるのではないかという、楽観と油断が混ざった感情。疲労が蓄積された35km位からは、「なんでこんなことをしているのだろう」という後悔にも似た感情。ゴール付近に生じる安堵感。そして、ゴールを通過した際の達成感。

 たった一度きりの経験でも色々と感じているのだから、20数年もの間「走り続けた」著者がどれだけのことを考え、感じていたのかは推して知るべきことに思えました。

 本書を読んで「人生とは本当にマラソンのようなものだ」と一括りにまとめて考えてしまうことはたやすいことかもしれませんが…自分にとってあるべき人生を考えさせられるいい一冊でした。文句なしに面白いです。

 そして、自分自身について考えるだけではなく、また走ろうかという気にさせられる一冊でもありました。