書評:日本のブルー・オーション戦略 10年続く優位性を築く/安部義彦・池上重輔

 はじめてW・チャン・キムブルー・オーシャン戦略の本を読んだのは2005年の秋でした。(社会人三年目の秋、札幌に行く前に寄った浜松町の駅ビルの書店で見かけて購入したはず。)レッド・オーシャンバリバリの通信業界にいた身としては非常に新鮮かつ重要な概念だと感じてましたが、反面、中々使う機会がない概念でした。

 
 その後言葉の響きの良さもあったのか、ブルーオーシャン戦略という言葉は一般的になり、また、仕事の打合せでも聴かれるようになって来ましたが、今回、改めて頭の整理ということで、本書を購入しました。

 本書では、ブルーオーシャン戦略の本質を「バリュー・イノベーション」「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」「フェア・プロセス」の3点と位置づけ、各ポイントについて、事例を交えながら解説がなされており、本家のお墨付きを受けた著者がまとめた書籍だけあり、非常によくまとまっております。

 本書の読み終わっての大きな特徴は、ブルーオーシャン戦略のフレームワークが整理されていること、及び、実行プロセスにまで落とし込まれていることの2点。

 特に印象的なのが後者の「実行」の部分。その分かりやすさゆえ、安易に用いられ机上の空論的に集約されがちな概念について、いかにして実効性を担保するかが大事だと明確に述べている点で非常に印象的です。

 一方で残念な点が2点。一点目は、フレームワークがきちんと整理されている反面、各フレームワークごとに注意するポイントがあまりに多すぎること。(合計で20−30あり、正直覚えきれません。)もちろん、上記の3つの本質を軸に覚えていけばいいと思っているのですが、このあたりはもう少し工夫できなかったのかと思います。
 
 そして、もう一点は、ブルーオーシャンの成功例のなかに、いくつか既にレッドドオーシャンに突入し苦戦しているものがあったのですが、ブルーオーシャンを享受しているものとの相違や、対応策についての示唆が不足していること。当初の「ブルーオーシャン戦略」の出版から3年以上が経過し、ブルーオーシャンという概念が一般的になってきた現時点において必要とされるのはその先の話だと思いますので、このあたりについてはもう少し言及が欲しかったと思います。

 とはいえ、本当によくまとまっており、入門本としては最適な一冊です。